Vol.5 ぼくらの2日間最終戦争/組曲THEME OF B-T、或いは
V系SF通信Vol.5をお届けいたいします。
〈丘〉をテーマにしたセカンドアルバムに向けて、一歩一歩、活動を進めているV系SFの店。5月19日に開催された文学フリマ東京38では、知人のブースで旧譜(既刊)を委託販売させていただくとともに、12月1日の文学フリマ東京39に向けた写真のようなカードを配布しました。現在決定している執筆者は、カード記載の9名です。
今号の記事は2本。先月、5月15日に発表された「ANDROGYNOS」について発表現場にいた佐藤久から、「BUCK-TICKの新譜をSF的に夢想する」の第2回を渡邉清文からお届けいたします。
目次
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ぼくらの2日間最終戦争 「ANDROGYNOS - THE FINAL WAR -」開催によせて(佐藤久)
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BUCK-TICKの新譜をSF的に夢想する 第2回 組曲THEME OF B-T、或いは(渡邉清文)
ぼくらの2日間最終戦争 「ANDROGYNOS - THE FINAL WAR -」開催によせて
佐藤久
なんかまた“丘戦争”やるんじゃないかという気がしていた。V系の歴史に残る、2017年に開催されたPIERROTとDIR EN GREYの対バンライブ「ANDROGYNOS」。通称“丘戦争”。両バンドメンバーが揃ってネット番組に出演していたこと、そして何よりDIR EN GREYリーダー・薫がニコ生番組「THE FREEDOM OF EXPRESSION」内で”アンドロジナス再び”と七夕の短冊(!)にしたためていたこと。最終戦争の気配はあった。
2024年5月15日の相模女子大学グリーンホールのDIR EN GREYのライブで、ふたたび伝説の対バンの開催が発表された。両バンドの兼業ファンが泣き崩れる会場前を通り抜け、相模大野駅へと進む黒いTシャツの人たちの列の中で「10月? 何とかその前6連勤にすれば休めるわ」「あー子供預けられるかなー」というファンの会話を聞きながら、私は震える手でV系SF編集部のグループチャットに「丘戦争やります」と書き込んだ。
1999年当時、バンドもファンもライバル関係にあった、PIERROTとDIR EN GREY。その時期に青春時代を送ったファンには夢のようなライブ。その後に知ったファンには、その時代の匂いに触れられるライブ。
新世紀エヴァンゲリオン、天使禁猟区、東京BABYLON……当時、アニメや漫画を中心に、世紀末の、世界をの命運を賭けた戦いを描く作品が多く生まれた。オウム真理教が引き起こした事件の影響もあり、最終戦争、ハルマゲドンという言葉にまつわるSF作品が多く生まれた。最終戦争はフィクションであり、カルトに信じられた妄想であった。戦争はまだ遠く、血や殺戮がフィクションの中に封じられていたからこそ、最終戦争もののSF作品や、死の匂いの強いV系の音楽が広く受け入れられていたのではないだろうか。
その後、9.11同時多発テロ、ロシア-ウクライナ戦争、ガザでの殺戮など、フィクションに封じられているべき悲惨な出来事が現実になり、それに関連した言葉狩りが日常になるなど、いったい誰が想像しただろうか。ネットで伝えられる悲惨な出来事と、日常の苦しみ、ネットリンチへの恐怖を同時に生きなければならない現代において、音楽ライブの熱狂はひとときそれを忘れられる、残された数少ない奇跡だ。成熟しつつもさらに尖るに違いない両バンドのパフォーマンスと、熱狂するオーディエンスの生命を、V系ファンもそうでない方も是非体感してほしい。PIERROTリーダー・キリトが言うように「国同士がヤルよりよっぽどマシ。」な戦争なのだから。「ANDROGYNOS - THE FINAL WAR -」は2024年10月11~12日、国立代々木競技場第一体育館で開催される。
BUCK-TICKの新譜をSF的に夢想する
第2回 組曲THEME OF B-T、或いは
渡邉清文
抵抗と祝福の夜、そして
2024年5月8日、夜、六本木にいた。EXシアター六本木、world’s end girlfriend の『抵抗と祝福の夜』を観るため、聴くために。透きとおった爆音を2時間あまり浴び続ける体験はすさまじく、すばらしかった。そして、M.C.なし、一部の曲をのぞいてボーカルなし、休憩なしノンストップのパフォーマンスを楽しむ観客がこれだけいるのだということも、すばらしいと思った。
WEGのライブについては、私よりも的確に伝えられる方のレポートがネットに上がっているので探してもらいたいが、BUCK-TICK関連で補足しておきたいことがある。開演前のS.E.で、櫻井敦司の声を聴くことができた。「感謝したい」ではじまる、Loopである。『ブレードランナー』のロイ・バッティの最後の言葉「雨の中の、涙のように」とともに、今はもういない、死者の言葉として。
ところで、ギターを奏で、爆音を鳴らすWEGは、今井寿からの影響を公言してもいる。
X(Twitter)での、world's end girlfriend の今井寿についての発言
「BUCK-TICKは昔から好きですよ。特に今井寿さんは作曲家としてもギタリスト(的ではないギタリスト)としても大好きです」(2019年4月22日)
「国内ギタリストで大きく影響受けたと言えるのはギタリズム時代の布袋さんとB-T今井さんですね」(2023年7月26日)
反対に、world's end girlfriend から刺激を受ける今井寿だって、ありではないだろうか?
インストゥルメンタル曲の可能性
すでに『音楽と人』2024年4月号のインタビューでは、今井寿が次のように語っている。
「たとえば、インストって今までできなかったんですよ。ヴォーカリストがいたし。いなくなってしまったことを逆手に取るじゃないけど、そういうこともやってみたくなってきた」
つまり、歌ものではない曲は、とうぜん入ってくるだろう。今までだって、メンバーがステージで演奏する曲としては作られていないけれど、アルバム全体のプロローグやエピローグとしてインスト曲が作られたことは少なくない。『異空』の「QUANTUM I」と「QUANTUM II」、『ABRACADABRA』の「PEACE」、『13階は月光』の「Enter Clown」などなどだ。
だから、いっそ、ライブの冒頭で、30分間シーケンサーの音源流しっぱなし、メンバーはステージに現れるけどほとんど何もしない、ときどき思い出したように変な音を出す、みたいなオープニングだってありだと思うのだ。
思い出すのは、SCHAFT第1期のライブだ。といっても、ビデオで見ただけなのだけど。1994年、今井寿とソフトバレエ(当時)の藤井麻輝が組んだユニットSCHAFTは、PIGのレイモンド・ワッツをボーカルに迎えてフルアルバムを制作し、ライブもおこわれた。レイモンドはボーカルのみならず演奏もしているし、自身が作曲した曲も収録されていて、完全に第三のメンバー、ドラムはMAD CUPSULE MARKET’SのMOTOKATSUという布陣。
ところが1曲目の「Olive」は藤井作曲の音響系の、作り込まれた音響の中、英語の詩/歌詞を女声が読むポエトリー・リーディングという楽曲である。暗闇の中、スモークが焚かれたステージに今井寿と藤井麻輝の二人が立っていて、ときおり、照明が当たると歓声が上がるが、手を振るなど何か応えることもなく、ただ立っているだけ。なんてカッコいいと思ったものだ。
演奏しないのはありえないって? それはそう。WEGのように延々と楽器の演奏だけ、M.C.なし、歌なしの時間が続いたっていいし、むしろ、聴いてみたい。
現実的に30分はオーバーとしても、電子音響と、ドラムと、ベースと、ヒデのギターと、今井のギターとギター以外の何かによる、歌声なしのアンサンブルがきっと聴けると思っている。「歌ものバンド」であることの制約は作曲だけでなく、当然ながらメンバーの演奏にとっても関わっていて、例えばヤガミ・トールはボーカルが気持ちよく歌えるドラムを叩くことを心がけていると語っていた。ギターソロを延々と披露するタイプのバンドではないけれど、歌抜きの、4人の演奏に集中して聴ける楽曲を、音源、ライブ共々期待したいと思う。もっとも、スタビライザーやギター以外の「新しい何か」の爆音ノイズが、期待の斜め上をいく演奏かもしれないけれど。
参照曲
BUCK-TICK
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Loop [作詞:櫻井敦司 / 作曲:今井寿]
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QUANTUM I [作曲:今井寿](アルバム『異空 -IZORA-』収録)
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QUANTUM II [作曲:今井寿](アルバム『異空 -IZORA-』収録)
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PEACE [作曲:今井寿](アルバム『ABRACADABRA』収録)
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RAZZLE DAZZLE FRAGILE [作曲:今井寿](アルバム『RAZZLE DAZZLE』収録)
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ENTER CLOWN [作曲:今井寿](アルバム『十三階は月光』収録)
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WHO'S CLOWN? [作曲:今井寿](アルバム『十三階は月光』収録)
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Continuous [作曲:今井寿](アルバム『Mona Lisa OVERDRIVE』収録)
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Continue [作曲:今井寿](アルバム『極東 I LOVE YOU』収録)
SCHAFT
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Olive [作詞・作曲・編曲:藤井麻輝] (アルバム『SWITCHBLADE』、ライブ映像(VHS/DVD)『Switchblade -Visual Mix-』収録)
Vol.5 了、以下次号。
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