Vol.3: DIR EN GREY『19990120』/ ギャロ単独公演『INFERNO-TOKYO-』
今回は、ディスクレビューとライブレポートを1本ずつお届けします。
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あの丘に残してきたゆらめきを、もう一度 DIR EN GREY 33rd Single『19990120』ディスクレビュー(佐藤久)
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ギャロ単独公演 『INFERNO-TOKYO-』ライブレポート(真壁潜熱)
V系SF通信のDIR EN GREY広報担当として、Vol.1のライブレポートに続いてディスクレビューを執筆するのは、佐藤久。再録音で復活したメジャーデビュー曲について語ります。
週一以上のペースで現場に足を運んでいるらしい真壁潜熱は、昨年12月2日のギャロ単独公演のライブレポートを執筆。
あの丘に残してきたゆらめきを、もう一度
DIR EN GREY 33rd Single『19990120』(2024年1月17日発売) ディスクレビュー
佐藤久
発売が発表されたその瞬間、私はクラブチッタ川崎のフロアにいた。『TOUR23 PHALARIS FINAL-The scent of peaceful death-』の初日、2023年11月6日のライブ終演後のことである。LEDパネルに映る“19990120”の文字。古参ファンならピンとくるあの日付だ。1999年1月20日、YOSHIKIプロデュースでコテコテなヴィジュアル系バンドがメジャーデビューした。『ゆらめき』『残-ZAN-』『アクロの丘』のシングル3枚同時リリースで。TV番組「POP JAM」でL'Arc〜en〜Cielが“ヴィジュアル系”という紹介に対して怒りをあらわにしたというエピソードも1999年だった。そして翌2000年にはLUNA SEAが“終幕”する。
ファンからは歓喜の声と、再録への戸惑いも聞かれた。LUNA SEAの再録アルバム発売、L'Arc〜en〜Cielの過去曲中心ツアーの発表と近すぎたせいもあるだろう。それでも、数十年の月日が経ってなおバンドが存在していること自体が、リスナーにとっては幸福なことである。
言葉よりも聴いてほしいとも思いながら、この記念すべき33rd Singleのレビューをしたいと思う。
1. ゆらめき
Shinya原曲のポップなラブソング。現在のハードなプログメタルサウンドとは相当なギャップがある曲だが、別れた恋人を想う歌詩が、バンドを離れたファンに対するものにも聴こえる。そうでなくも聴こえる。友人のひとりは「亡くなった父を思い出す」と言っていた。ピアノとヴォーカルのみで始まり、Dieのギターが現れ、ベースとドラムが重なり、薫のエレキ指弾きによる不思議な音色のギターが入り、少しずつ歪んでいく展開はエモーショナルで甘く、脳がゆらめいてしまう。特にDieのギターソロは出色の出来。最近の鋭く歪んだ彼の音は実直でありつつ壊れそうなギリギリのバランスで、心をかき乱される。
2. 残
DIR EN GREYはこれまでもシングルのカップリング等で過去曲の再構築Ver.を発表しているが、“ほぼ新曲”という前科もあるため、“疑われ”ていた。特にこの曲は2009年に7弦ダウンチューニングで一度再構築されており、そのDjentな重低音の支持者も多い(私もその一人である)。どうなるのか、魔改造を望む声とそうでない声が上がっていた。結局、原曲に近いまさかの6弦レギュラーチューニングであった。曲をほとんど変えずに、重低音を“重厚音”に置き換えるという、地味に凄いアプローチはスルメ曲の予感がする。PSYCO PASTTRAP!PSYCO PASTTRIP!
3. アクロの丘
イントロの風が揺らしたようなアコギの音、続く歪みの向こうに過去が立ち上る。
“君は今 あの丘で 二人で見た この空を見つめてる
僕は今 あの丘で 二人でいた あの丘を見つめて”
素朴すぎる歌詩を2024年の京の表現力で囁かれると、バンドとの年月と、自らの人生が素直に想い返される。そしてそれは“あの丘”という素朴なことばに収斂されていく。美しいがファンタジーだった“あの丘”は、リスナーの中で、家族が眠る墓地や、恋人と歩いた公園、ライブ会場というリアルな情景に繋がる。そして、古代ギリシャの市民が集った広場であり神殿、アクロポリスにも。ひとつ前のアルバムタイトルはそこで残酷な公開処刑を行った僭主の名、ファラリスである。
ツインギターが素朴なフレーズでユニゾンする3:40付近の箇所は、二度と会えないと思った二人が真っ直ぐ対峙して、視線が合った一瞬のようだ。もう一度出会えたらいいねと思う二人は様々な作品に登場するが、V系SFのニュースレターらしく、ル=グウィンの『闇の左手』のゲンリー・アイとエストラーベンを挙げたい。あの二人の別れも雪の丘だった。
「想い出よ ようこそ」
そう優しく歌いかけられて、想い出にひたることを赦されている、と感じた。
想い出がある人もない人も、ぜひ聴いていただきたい1枚である。
そして、2024年12月刊行予定の、次のV系SFアンソロジーのテーマは『丘』。
こちらもご期待いただきたい。
ギャロ単独公演 INFERNO-TOKYO- ライブレポート
真壁潜熱
於:渋谷Spotify O-WEST
2023年12月2日(土曜)
ただいま午後5時を回る頃。
そのステージの名前は、異人娼婦館「黒ノ世界」。幕はすでに開かれており、ステージ中央には三角木馬が鎮座し、背景には黒字に鮮やかなピンク色の対の鶏が描かれたバックドロップをたたえている。galloはイタリア語で雄鶏。そしてお馴染みのBGMに合わせ、左手の白い皿に右手のスプーンを打ち付け、強請るような響きを持って鳴らしているのは、ファンである黒い”雌鶏”共だ。
変調して歪められた、かの有名なテーマパークのパレード曲が流れ、メンバーがステージに現れる。白と黒を基調に、これもまた有名なブランドロゴのパロディを散りばめた衣装に身を包んだワジョウ、カエデ、アンディ、ノヴ。そしてステージ中央に鎮座する三角木馬の玉座に現れたのは、真っ赤なエナメル衣装に身を包んだボーカル、ジョジョだ。
SEに合わせ、拳と声を煽る。”黒ノ世界へようこそ”。そう告げられたのを合図に、楽器と一緒にジョジョが大きく唸りを上げる。
1曲目は「CRUELLO DE VIL」。2023年の”六箇月連続配信音源”の1曲目であり、このライブを皮切りに発売されたアルバム『INFERNO』の1曲目を飾る。ギャロお得意の、恋しいあまりに食べてしまう、という恋情を、かのヴィラン“Cruella De Vil“になぞらえてグロウルする。雌鶏たちは唸る音に合わせて皿を叩き、頭を振り、ジャンプする。“真冬の澁谷で地獄を描きます“。物質量を伴うかのようなアタックを効かせて歌い上げたギャロは、この決起のライブを見据えていたのだろうか? 300枚売れなければ中止と条件が課せられていた、地獄の名前が銘打たれたライブが幕を開けた。
「SILLY THE BOOH」もまた、配信で発表された新曲だ。北極星の名を読経のように連なる歌詞に合わせて皿を叩く。O-WESTのフロアいっぱいの雌鶏たちのウェーブが圧巻だった。怪しげなギターで招かれ、重苦しいながらもダンサブルに展開する「嬲魔-BELIAL-」が続く。
ジョジョが”俺たちのために踊り狂ってくれるか!?”と煽り始まったのは、「WILLY THE BOOH」だ。「SILLY THE BOOH」の後日談に位置するような曲で、双方に共通するダンスの振付が楽しい。エモーショナルなギターのアウトロまで踊り尽くした。
いつもならば”調教と云う名の振付講座”が挟まれる「玩具」もワンマンライブともあれば説明は不要。スタンドマイクでジョジョ立ちを目まぐるしく展開するジョジョを雌鶏が真似る。サビ前で激情を吐き出すように歌うのに合わせ、楽器隊も抱え込むような熱が入る。いつも冷静に佇んでいるアンディが、叩きつけるようなタッピングをしていたのが印象的だった。紛れもないワンマンだ、と噛み締めた。
“メンバー全員の気持ちです、みんなのおかげで開催できました。ありがとう”、とジョジョはMCで深々と礼をした。その言葉と5人のライブへの姿勢から気持ちは充分に届いている。
“今日は特別にしっとり聴いてください”、と演奏された「裏・東京シンデレラ」は、密かに開催されたファンからのリクエスト企画上位の曲だ。”盗撮可”を伝えるチャイムが流れ、ステージに一斉にスマホが向けられる。ノヴの流星のような響きを持ったギターが奏でられる。カエデの透き通ったコーラスとジョジョの1音1音を辿るような声が追いかけ合い、”魔法の言葉はビビデ・バビデ・ブゥ”と、泣くのを堪えるような力強いビブラートが、夜空に突き抜けるような青い照明の中で響いた。
幸福を悲痛に乞う曲から一転、「GALLOWEEN N°1」からフロアとステージが一体になって楽しむゾーンに突入する。“隣の人にちょっとぶつかっても大丈夫。それで怒るような人は今日はいないでしょ?”ゾンビのように左右にモッシュを教えてくれるジョジョは、緊張のせいかそう言いながらノヴにぶつかりにいったり、マイクスタンドに当たったり、上手と下手が分からなくなってワジョウに突っ込まれたりしながら笑いを誘った。ハロウィンの澁谷をギャロ流の猛毒で描いたナンバーだ。「東京破廉恥劇場-ヱデン-」でもジョジョはメンバーに咲くように煽り、赤い衣装を煌めかせながら歌詞の通りに踊り狂っていた。そして「淫魔-BELPHEGOR-」で盛り上がりが一層高まる。雌鶏たちは高く跳ねながら皿を叩き、頭を振り乱す。ジョジョは三角木馬の上で彼らの曲世界にしか存在しない、架空論文”黒鶏論”の一節を語った。
フロアに手をかざしながら、一度ステージからジョジョは姿を消した。普段は煽ることの少ないノヴが”腹減ったなあ!”とお決まりのフレーズを叫ぶと、悲鳴のような歓声が上がった。アンディ、カエデ、ワジョウもそれに続き、ワジョウの息継ぎのない詠唱のようなギターが紡ぐのは「葬魔-LUCIFER-」だ。ギャロの歌詞には、彼らのテーマでもある黒い雌鶏の呪文や悪魔召喚、シンデレラの呪文が出てくるが、この曲もまた実在のグリモワール、大奥義書に記述された呪文でのみ構成されている。しかし、ボーカルの代わりに唱えるドラム、ベース、ギターに、雌鶏たちは一際激しく頭を振り、体を折りたたんだ。
次はカエデのドラムソロ。ただ楽しいだけではなく、しっかりとした音楽的な実力を感じ、思わず涙が溢れた。
再び登場したジョジョは軍帽を被り、魔導士のようなマントを羽織っていた。そして魔女とふしだらな女を掛け合わせた「VITCH」でさらなる狂乱に誘い込む。ワジョウの鋭くしなやかなギターソロが駆け抜ける。前述の通り、ギャロの歌詞には多数の実在の呪文が引用されるが、この曲における魔法の言葉の力強さを、どうか聴いてみてほしい。人魚姫が飲んだ薬を劇薬に見立てた漆黒の想像力の翼で東奔西走するようなアッパーチューン「MRMD-13β」で盛り上がりは最高潮へ。「黒鶏式葬送曲第参番-フェクダ-」のボックスステップありツーステップありウェーブありの振付、終盤に相応しい安定感のある「夢魔-INCUBUS-」で、皿とスプーンが美しく舞う。
本編最後は、配信リリースのラストを飾る「INFERNO-UNO-」……彼らの故郷である北海道の戦争の記憶と地獄の業火のイメージが重なる。彼らの衣装の白と黒と赤は、北海道の雪と戦火で真っ黒な地獄に堕ちていくようだ。三角木馬の傍に蹲り、嗚咽するように歌いあげた。
“聞こえているか!?ありがとう!”アンコールで笑顔を見せながら、新曲の「YOKOHAMA BEAST」を初披露し、 「極東海賊團-神威」でギャロ的希望を抱くような幸福で幕を閉じた。
地獄には階層があるという。来年の15周年へ向けて、彼らが描くのは現代の無間地獄か。それともそれらを食い尽くしてくれるような狂乱か。きっと両方だ。
セットリスト
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CRUELLO DE VIL
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SILLY THE BOOH
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嬲魔-BELIAL-
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WILLY THE BOOH
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玩具
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裏・東京シンデレラ
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GALLOWEEN N°1
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東京破廉恥劇場-ヱデン-
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淫魔-BELPHEGOR-
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葬魔-LUCIFER-
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VITCH
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MRMD-13β
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黒鶏式葬送曲第参番-フェクダ-
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夢魔-INCUBUS-
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INFERNO-UNO-
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YOKOHAMA BEAST
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極東海賊團-神威
(以上)
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